「開かれた能楽堂」 東欧公演へ

シビウ国際演劇祭に出演

公益財団法人山本能楽堂(大阪市中央区)が6月16日から21日まで、ルーマニアとブルガリアで海外公演をします。「上方伝統芸能の海外発信」として大阪市芸術活動振興事業の助成も受けています。

ルーマニアではトランシルバニア地方の古都シビウで毎年開催されるシビウ国際演劇祭に出演します。民主化革命後の1994年に本格的にスタートし、現在はエディンバラ、アビニヨンとともに「ヨーロッパの三大国際演劇祭」に数えられる大規模なフェスティバル。世界の70カ国から約350団体が参加、日本からも95年の「劇団1980」以来、串田一美さん、野田秀樹さん、平田オリザさんら様々な演劇人や劇団が参加してきました。古典芸能はこれまでに歌舞伎「平成中村座」や狂言の公演がありましたが、能は今回の山本能楽堂が初めてだそうです。

ブルガリア人留学生が東欧と縁結び

山本能楽堂の初めての海外公演は2011年、ブルガリア。大阪大学大学院で学び、山本能楽堂でも修業していたブルガリア人留学生ペトコ・スラボフさんが結んだ縁でした。

ペトコさんは母国でコンピューター工学を修めた後、ソフィア大学日本学科で学び、2005年に大阪外国語大学に留学。能に魅せられます。いったん帰国後、08年に再来日して能楽師に入門を志願しましたがなかなか受入れてもらえず、最後に巡り合ったのが山本能楽堂の当主・山本章弘さんでした。ひたむきに能を学ぶペトコさんは「家族同然の存在」になりました。

「師匠にぜひ母国を見せたい」とペトコさんは2009年に山本さんをブルガリアに招きました。この時にソフィア大学などで開催したワークショップが好評で、翌々年に公演が実現しました。
2013年にはスロバキア、2015年には再びブルガリアで公演、ソフィア国立歌劇場で現地の俳優や学生と一緒に舞台をつくって現地で大きく報じられました。

「東ヨーロッパは民主化後、ODAで日本のお金が入ったこともあり、日本への関心がとても高いのです」と山本佳誌枝・山本能楽堂事務局長。「でも、これまで日本の伝統芸能公演はほぼ西ヨーロッパばかり。うちは東ヨーロッパで、現地の方々と交流しながら長く続く関係をつくっていこうと考えました」

ペトコさんは2014年に帰国し、ソフト開発会社を営みながら、山本能楽堂の海外駐在的な存在として公演コーディネートにも活躍しています。スマホで遊びながら能を学べる無料アプリ「お囃子先生」「We Noh」も開発、リリースしました。

多彩な人々が集う能楽堂

山本能楽堂は昭和2(1927)年の創設時から「開かれた能楽堂」でした。当時の大阪には能をたしなむ商人や経営者が多く、能楽堂は社交場だったそうです。初代の山本博之さんも、もとは能をたしなむビジネスマン。山本家は京都で江戸時代は両替商、明治維新後は銀行を営みましたが、章弘さんの祖父に当る博之さんが知人の借金を被って会社をたたまざるを得なくなり、若き日から打ち込んできた能で身を立てようと大阪に移って能楽堂を開きました。

財団法人として運営する現在も普及・啓発活動に力を入れ、能、狂言、文楽、上方舞、落語、講談、浪曲など様々な上方伝統芸能のハイライト部分を組み合わせた初心者向けプログラム「上方芸能ナイト」などを手がけています。文楽義太夫の豊竹英太夫さんは「伝統芸能といっても分野が違えばなかなか共演の機会もない。山本能楽堂は様々な伝統芸能の演者が出会う場になっています」と話します。

美術や演劇など異ジャンルのアーティストたちとの協働も得意です。2009年にアートイベント「水都大阪」で新作能「水の輪」を野外上演したことがはじまりでした。「海外公演のノウハウも美術のみなさんに教えてもらいました」と佳誌枝事務局長。今回の東欧公演も背景に美術家井上信太さんが制作した巨大な老松を配します。

 

今年のシビウ演劇祭は6月10日から19日まで。演劇部門には15カ国47団体が参加、山本能楽堂は最終日の19日に州立コンサートホールで「安達ケ原」を上演します。吸血鬼ドラキュラ伝説の地・トランシルバニアの人々に親しみやすいものを、と選んだ鬼女のお話です。

ブルガリアとルーマニアで大阪を紹介する英文パンフレットも配り、大阪もアピールします。(佐藤千晴)

山本能楽堂 東欧公演2016
6月16日(木) ルーマニア・ブカレスト市
        ブカレスト国立劇場
        スタジオホール

6月19日(日) ルーマニア・シビウ市
        州立フィルハーモニーホール
       (シビウ国際演劇祭)

6月21日(火) ブルガリア・ルセ市
        ルセ国立オペラ劇場