生きること、表現すること〜釜ヶ崎芸術大学 @ヨコハマトリエンナーレ2014

 日雇い労働者のまち・釜ヶ崎(大阪市西成区)のNPO法人「ことばとこえとこころの部屋」(ココルーム)が主宰する「釜ヶ崎芸術大学」(釜芸)が、現代アートの国際展「ヨコハマトリエンナーレ2014」に参加。メーン会場の横浜美術館への展示のほか、オープンキャンパスやイベントを通じて「釜芸」の表現活動を紹介しています。

 釜ヶ崎は日本の高度経済成長期、日雇い労働者が集まるまちとして形づくられました。が、経済成長が鈍化すると、仕事が減り、貧困、ホームレスなどの問題が顕在化。高齢化も進んでいます。
 「釜芸」は、ここで暮らす人々や外から来る人々が学び合う場として2012年にスタートしました。書道、詩、狂言、合唱、哲学、天文学など様々な講義やワークショップが、無料かわずかな参加費で受けられます。

 3年に1度開かれる通称「ヨコトリ」と「釜芸」を結んだのは、「ヨコトリ2014」のアーティスティック・ディレクターを務める美術家森村泰昌さん。大阪生まれの大阪育ちです。2007年に映像作品『なにものかへのレクイエム(人間は悲しいくらいにむなしい 1920.5.5-2007.3.2)』のロケを釜ヶ崎で行い、ココルーム代表の詩人上田假奈代さんらがサポートしたのが始まりでした。

 世界的な芸術家が出展するアートフェスティバルに、なぜ、無名のおじさんたちの活動が招かれたのでしょうか?

人間の生き死に関わる多くの問題を抱えた街・釜ヶ崎に、医療や福祉や宗教ではなく、表現を手がかりに関わろうとする「釜芸」は、活動の総体が他に類例を見ない魅力的な表現活動。だから参加をお願いしました……展示のイヤフォンガイドで、森村さんはこんな風に説明しています。

 上田さんたちは、ヨコトリへの参加費用や、2014年度の釜ヶ崎芸術大学を開講する費用をクラウドファンディングで募集し、見事に目標額の300万円を集めました。

 メーン会場・横浜美術館の「漂流する教室にであう」と題された一角が釜芸の展示空間です。天井には「芸大生」(釜ヶ崎のおじさんたちですね)の書道作品がびっしり貼られ、壁面も作品、詩、記録映像、釜芸の活動を報じる新聞の切り抜きなどでにぎやかです。四畳半ほどのスペースにちゃぶ台を置いた、ココルームの空間を再現したスペースも。色彩もにぎやかで、ヨコトリの展示の中で異彩を放っています。
 9月21日に横浜美術館で開かれた「釜ヶ崎芸術大学 in ヨコトリ」の一こま、講座「ことばと生きる」の午後の部を見学しました。講師は上田假奈代さん。小学生、釜ヶ崎から横浜に出張したおじさんたちなど26人が参加しました。
 まず、おじさん(おばさんも)と子どもがペアを組み、肩を並べて3分間、画用紙にそれぞれの「夢」を描く。次にパートナーから7分間、夢の絵をめぐる話を聞きます。お互いの話を聞いたら、パートナーの夢を詩につづって絵に書き添え、それを朗読して完成です。


▲パートナーが描いた夢の絵に詩を添える|横浜美術館にて

 子どもたちの夢は「詩人になりたい」「ヴィオラが大好きだから音大に行きたい」「占い師になる」など未来の自分を思い描いているものが主流。一方でおじさんたちは「ハワイに行きたい」「憧れの(高倉)健さんと握手をする」「自分のために100歳まで生きる」「八代亜紀さんと手をつないで富士山に登り、てっぺんで一緒に歌う」など、実に奔放です。
 年代的にはおじいちゃんと孫のような組み合わせですが、ふつう、おじいちゃんは孫に向かってこんな風にまっすぐに自分を語ることはないでしょう。ところがここでは年齢は離れていても、役割も上下関係もない。一期一会で、限られた時間にお互いの話を誠実に聴き合い、表現する。それがとてもさわやかで、まさに「あらゆる人の学び合いの場」でした。
 ワークショップを終えると、参加者が感想を一言ずつ。「身近なものでも何でも、意外に詩に出来ちゃうものだと思いました」と、詩人志望の小学6年生男子が驚きます。「勝手気ままがええねん」とおじさん。「夢は書くことによって一歩近づける。自分を押し上げるのにすごく良かった」と超ポジティブなおじさんも、「普通は10歳の女の子と話す機会なんてないから、昔とずいぶん違うとびっくりした。また女心が分からんようになったなあ」と笑わせるおじさんもいて、和やかな空気が会場を包みました。


▲笑いが絶えなかった発表会|横浜美術館にて

 この日と前日の20日には美術館前の公園に大きな青いビニールテントが出現、釜ヶ崎そのままにカレーライスの炊き出しをする「TAKIDASHIカフェ」が営まれ、2日間で約1100食が出ました。「炊き出しは食事を提供することだけが目的ではなくて、つながりをつくる場です。食べ物の情報はとても早く届くからみんなが集まってくれる。そこで情報交換が生まれます。釜ヶ崎の知恵を今回、公開しました」と上田さん。横浜の日雇い労働者の街・寿町からもおじさんたちが来ていました。


▲横浜美術館前の広場に出現した炊き出しテント。釜ヶ崎から直送です。

 「ヨコハマトリエンナーレ2014」は11月3日まで。

 「釜芸」の次の大イベントは、来年2月22日、大阪市西成区民センターでの「釜ヶ崎オ!ペラ」。作曲家の野村誠さんもかかわりますが、高らかに歌い上げるオペラ上演にあらず。釜芸の成果を発表したり、映画を上映したり、おしゃべりをしたり、みんなが参加できる表現空間をつくります。
(佐藤千晴)

【プロフィール】
釜ヶ崎芸術大学とは 2012年から大阪市西成区の釜ヶ崎と呼ばれる地域にある様々な会場で、年間40〜60の講座やワークショップを開いています。無料またはカンパで年齢、地域問わず誰でもが参加できます。一度だけの受講ももちろん可能。多彩な講座をユニークな講師と一筋縄にはいかない参加者とともに学び合います。真剣であり、笑いあり、緊張もあり、筆舌に尽くし難い時間が広がります。

釜ヶ崎芸術大学2012WEB
釜ヶ崎芸術大学2013WEB

NPO法人こえとことばとこころの部屋