シンポジウム「人を魅了するプロデュースとは何か?」

レポート

突然ですが、みなさんはプロデューサーに必要な資質は何だと思いますか? 大阪府と大阪市は、若手プロデューサーの育成を目指して「芸術文化魅力創造プロジェクト」を主催しています。2016年度のプレイベントとしてシンポジウム「人を魅了するプロデュースとは何か?」が10月15日に開かれました。さまざまな分野でプロデューサーとして活躍する4人がパネルディスカッションで語り合いました。

大阪市役所の正面玄関から入ってすぐの一階ホールが会場となり、約200人が耳を傾けました。冒頭はパネリストの自己紹介。

倭太鼓 飛龍 池口誠さん 僕の周りには和太鼓のみならず、和楽器とか日本の文化に親しんでいる若手が多くいますので、僕は和太鼓の目線から大阪の芸術文化に関わる若手を盛り上げていきたいと思っています。

ストリートダンスプロモーター/株式会社アドヒップ代表 原田充啓さん ストリートダンス界ではマシーン原田と呼ばれています。1983年に映画「フラッシュダンス」「ワイルドスタイル」に感動してブレイクダンスをはじめました。お笑いコンビ「ナインティナイン」の岡村くんとエンジェル・ダスト・ブレイカーズで踊ったりもしていましたが、当時はプロダンサーもいなければダンスシーンもなかった。「自分でつくらないと!」と思ってイベントやフリーペーパーや映像メディアなどを使ってストリートダンスを世の中に広げていく活動を続けている人間です。

漫才作家、NSC(吉本総合芸能学院)講師 本多正識さん NSCの講師をしていて、最初の生徒がナイナイの岡村くんとか、矢野・兵動くん、宮川大輔くんたちでした。プロデュースというよりは、オール阪神・巨人さんの台本などを中心に33年間に5000本ぐらい書いているような文字通りの裏方なんです。この話が聞けて良かったなと思って頂けるものがひとつでもあれば幸いです。

大阪ガス近畿圏部都市魅力研究室長・大阪アーツカウンシル委員 山納洋さん 大阪ガスの社員として扇町ミュージアムスクエアという劇場や、メビック扇町というインキュベーション施設で仕事をしていました。また、大阪・中崎町のcommon cafe(コモンカフェ)を12年ほど運営しています。大阪アーツカウンシルでは行政が行う文化事業の評価や助成金の審査をしたり、新たな事業はこんなことをしたほうがいいのではと提案したりしています。

司会進行 田中大爾さん 司会進行の田中大爾です。若手のプロデューサーを育てていこうというプロジェクトがONPS(オンプス)=Osaka New Producer’s Showcase=であり、今日がキックオフイベントとなります。

山納さん 今回のONPS(オンプス)は大阪府市の「芸術文化魅力育成プロジェクト」として立ち上がった事業です。一言で言えば大阪で芸術文化に関わる若手プロデューサーを育てようという事業で、大阪アーツカウンシルが提案しました。

みなさんの多くはプロデューサーという言葉にあまり馴染みがないと思うのですが、簡単に言いますと、舞台の上に立つ人と、客席のお客様の間に立つ裏方の仕事です。このプロデューサーという存在に光が当たることは実はあまり多くありません。どんなプロデューサーが大阪にはいるのか、どんな仕事をしているのかを知ってほしいというのが今日のシンポジウムの趣旨です。

才能ある人たちが活躍できる舞台をつくることがプロデューサーの仕事ですが、そういうことができる人を育てようという事業がこのONPSです。

プロデューサーは舞台の上でものをつくる以外のすべてのことをやります。宣伝をするのも仕事。会場を押さえるのも仕事。舞台に立つ人のモチベーションをあげたり、打ち上げの会場でいっしょに夜遅くまで飲むのも仕事です。そういうプロデューサーが大阪では育っていないという実感をアーツカウンシルでは持っていました。

2015年にこの事業を始めました。今年はストリートダンスを中心とした企画提案が採択されました。今日は芸術文化という冠のついたシンポジウムですが、ジャンルが違ってもプロデューサーの動きは似ているので参考になるところは多くあります。が、裏方さん同士はそんなに交流がありません。様々な分野のプロデューサーが出会い、事業実施後には大阪の文化レベルが上がっている、そんな期待感からこの企画が選ばれました。

プロデューサーの仕事とは?

田中さん 今から人を魅了するプロデュースというテーマのお話をしますが、プロデュースとは何なのかを改めて調べてみました。英語における「produce」の本来の意味は「生産」「作り出す」は一緒ですが、主に使われるのは穀物などの生産であるようです。農業って何もない土地に種を植えて、実がなり、実に対して価値をつけて対価をえる。これってプロデューサーの仕事といっしょですね。われわれが扱っているのは人であり、さまざまな分野です。実は何なのかを発見し、栄養となる水や太陽を与えるのがプロデューサーの仕事なのではと考えています。

例えば和太鼓は非常に伝統的な場所で、昔からあるものをしっかり守っている印象を受けるのですが、和太鼓におけるプロデューサーはどういう仕事をされていますか。

池口さん 僕は中学のときに父親と参加したアマチュア100人で100台の太鼓を叩くコンサートへの出演がきっかけで和太鼓の世界に飛び込びました。和太鼓を舞台で演奏するのは最近の文化であり、どういう歴史でどう育ってきた楽器なのか、伝統としての和太鼓と捉えている演奏者はほとんどいないと思います。

和太鼓がほかの楽器と違って棒を持って革を叩けば誰でも音を鳴らせるので、とっつきやすい。でも、これで何をするのが正解なのかがわからないんです。和太鼓とはこういうものだという考えが先行してしまっているところがあります。

僕は本人が楽しめて、お客さんも楽しめたらと考えていまして、伝統と今の若者が聞いて楽しんでいるような音楽の境目に何があるのか追い求めたいです。「倭太鼓 飛龍」ではCDを出したり違うジャンルとコラボしたりすることで、今の時代にあわせたもの、伝統芸能でも新しいものを提案していければと思っています。

田中さん ストリートダンスのシーンを日本で最初につくりだされた原田さんですが、当初からプロデューサーという働き方を意識したのでしょうか?

原田さん 結果的にですね。27歳で会社を立ち上げて、ダンサーの出演場所がなかったのでイベントをつくりました。イベントだけでは広がらないのでデザインや写真の知識はなかったけれどフリーペーパーをつくりました。地道にダンスを世の中に伝えたくて、わけもわからないまま続けてきた中で培ったスキルです。どちからと言えば制作者的なポジションですが、「もうちょっとお金も引っ張ってこなくては広がらない」と思ってお金集めをしたり、「人と人をつなげないとダメだな」と思ってダンサーにいろんなジャンルの方とコラボしてもらったりしたあたりからプロデューサーになってきたのかなと思います。

田中さん 結果としてプロデューサーをされていますね。お笑いという分野は、わりと個のものじゃないですか。でも吉本興業はトータル的ですね。

本多さん 僕は吉本興業の人間ではなくて、NSCで教えているだけですが、吉本は行き当たりばったりじゃないかな?(会場笑) えらいと思うのは「アカンな」と思ったらすぐに手をひくところです。実に大阪的やなあと思いますね。

テレビの世界でのプロデューサーとは完全にお金を引っ張ってくる人です。人脈でどんなタレントさんをブッキングができるか、につきると思います。先ほど山納さんがおっしゃっていた、打ち上げをどこの店でというのも大事です。席の順番をどうするかなど些細なことだけれど、やっている側に気持ちよくやってもらうことが大切ですね。

田中さん 山納さんはいろんなカルチャーに精通されていますが、優れた芸術でもなかなか集客できていないのは、プロデューサーが不足しているからだとお考えですか。

山納さん 僕が一番親しんでいる小劇場演劇の世界ではプロデューサーと名乗る人が少ないですね。裏方さんは制作さんと言います。会場をおさえる、プレスリリースを打って宣伝をする、当日の受付をする、打ち上げの手配するまでは制作もプロデューサーも一緒なのですが、新しいことを仕掛けるとかお客さんの周波数にあわせるみたいなことがプロデューサーの役割としてあるんだと思います。

演劇もアートでも音楽でも、実演者や演出家と呼ばれる、舞台の上に責任を持つ人たちが「えらい」という状況があります。制作は「このセリフを短くしたほうがいいのでは?」などと言える存在ではないんですね。でもお客さんからすると「ここ長すぎるでしょ」という気持ちがあって、そこを調整するのがプロデューサーの役割なんだと思います。

アート、芸術文化のプロデューサーが育っていないという背景には、この要素が強いということがあると思います。舞台上で展開しているものの「すごさ」が、多くのお客さんにはわからないという状況があり、批評家も加わってレベルの高いサミットのような世界で進んでいる。

お芝居はほとんど見たことがないという方は、もしかしたらその輪の中に入れないということが起こっているかもしれません。ハイアートの世界では、これがすごく大きい問題になっています。

お客さんが何を求めているのか、お客さんの周波数って今どのあたりなのか、トライアンドエラーを重ねてその感度を上げていくのがプロデューサーの能力なのかなと思っています。

なぜ今、ストリートダンスは多くの人に支持されているのか。

田中さん 今の話の流れで言えばストリートダンスは圧倒的に若者に支持されていて非常に集客をしていますよね。まさにそのシーンをつくってこられた原田さんは、どう感じておられますか?

原田さん もともとストリートダンサーは少なくて、踊っている人を見に来るという文化がありました。DANCE DELIGHTをはじめとして沢山のイベントをやっていますが、昔は舞台に出る人が20人ぐらいでも観客が400〜500人でした。今は出る人が200人であれば見る人も200人ぐらいです。つまり同じ人数でもその質が変わってきていて、参加するカルチャーになっています。

歌とか漫才とかは有名になってファンがつくファンビジネスですよね。一方でダンスは神ビジネスなんです。プチ神様がたくさんいます。

ダンスのインストラクターで稼いでいる人が多く、表現してお金を得ているのは大阪では極めて少ないです。ダンスは生徒やその友だちが見に来たり、横のつながりが強い絆になっています。ダンスのイベントを弊社の独占でやったわけではなく、「このフォーマットを自由に使ってください」とオープンソースにして、僕らが利益を得るよりも、まずダンス人口を増やそうとしてきたのが大きいと思います。

田中さん  なるほど。日々インストラクターとして生徒に触れているのですね。

原田さん そこが大きいと思います。先生は優しいし、時には叱ってもくれて、ダンスを教えるだけでなく、人生も教える。教えることで先生側も育っていくという良い循環が毎日行われています。

田中さん 和太鼓もレッスンはありますか?

池口さん あります。プロの和太鼓奏者がそれだけで食べていけているのかといえば、まず世間に知られていないですね。一般的にテレビ受けが良いのは毎日何十kmも走って、走り終えたら打ち込みを1時間やって、というスタイルです。それが和太鼓の正解になっているのが現状です。良い悪いではなく、ストイックなイメージが一般受けしにくい部分なのかな。

和太鼓という楽器は自分を追い詰めて出てくる音楽やというイメージがある。和太鼓で絶対的なイメージというのが演奏者としてはあまりいない。和太鼓の演奏者でどんな人がいるのか紹介するのが難しいなと感じています。 

田中さん 僕も和太鼓は叩いたことがないですね。小学校のときにクラスで面白いほうだったので、面白いやつと組んで漫才はしていました。笑いには触れることが多かったです。

本多さん しゃべりは何の道具もいらないですからね。いま原田さんの話を伺って感じたのは、すごく愛情を持っていらっしゃるじゃないですか。自分がどうなりたい、こうなりたいというよりも、ストリートダンスを世間に広めたい。ダンスそのものに対する愛情が深いのが伝わるんだと思います。自分だけ面白いと思ってもお客さんが楽しんでもらえなかったらプロとして成立しない。私は見極める側のひとりで1万人以上の生徒を教えてきていますが、初めて見た時に売れると思ったのは4人だけです。ナインティナインの岡村くん、キングコングの西野くんと梶原くん、そして友近さん。ほかの子たちは最初はそんなに感じなかったけど、みんながんばったんです。

原田さん 岡村くんといっしょに踊っていたとき、まったく面白くなかったですよ(笑)

本多さん おっしゃるように最初のネタをやったときにぜんぜん面白くなかったですね。岡村くんのあのすごい動きはボケで活かせると思ったので、ボケとツッコミが逆やろうと言ってコンビの役割を変えさせました。

田中さん なるほど。でも何かに長けていたんですね。

本多さん 岡村くんは光っていましたね。いま、本にするために岡村くんと対談しているのですが、「面白くならなあかんと思ったん?」と聞いたところ、「そうじゃないんです。一番になりたいと思って、なるためにどうしたらいいねんと逆算していって、これをしないといけない、というものを全部やりました」と言うんです。それは売れるよという話です。ちゃんとロードマップを決めて消化していっていますから。そういう意味で戦略的ですね、彼は。面白くはなかったが光ってました。

田中さん そういう資質を本多さんは見つけておられる。まさにプロデューサーですよね。

本多さん 売れてくれたおかげで今こんなことが言えるだけです。

リテラシー問題

田中さん プロデューサーに必要な資質を、山納さんはどうお考えですか。

山納さん この流れですごく言っておきたいことがあります。資質はのちほど言いますね。リテラシー問題と呼んでいるものがあるのです。リテラシーとは読み書き能力のような意味ですが、表現者ってなにかの球を投げるでしょう。その球が時速150kmだったときにお客さんは受け止められないという感覚があります。さっきの原田さんの神モデルの話が面白くて、お客さんは神であるこのインストラクターに習いたいというのは、神がどんな球を投げているのかわかっているからですね。ここでこんなふうに踊れるのだ、とイメージできていて、神のようになりたいと努力するからできるようになるわけです。

お客さん側がその表現のすごさをわかる状態がすごく大事です。演劇の世界で見巧者(みごうしゃ)という言葉があります。見巧者が客席に集まっていれば舞台上のすごさを読み取れます。この状態になると物事が広がりやすいです。漫才に関して言えば「今の話のオチは?」と普通の人が言うぐらいリララシーが高いですね。和太鼓の世界ではどうですか。

池口さん 確かにどう見て良いかわからないという方は多いですね。演者も自分が表現したいものを信じてやっているんですが、それがどう受け止められようと、拍手なのか、歓声なのか、和太鼓奏者はどちらもいいんやと思います。拍手がほしければほしい顔をして演奏していくべきですよね。

山納さん 劇場の人間やプロデューサーなんかもよくこのリテラシー問題の話をするんですね。お客さんにもうちょっとお芝居の見方を伝えないといけない。演劇では2000年頃以降にワークショップが浸透してきていますが、自分で演じてみて初めてプロのすごさがわかる、という部分があります。実際にやってみるということと、すごいものを見るというのを切り離して考えないほうがいいと思っています。

このあたりから資質の話につなげていきますと、プロデューサーには翻訳する能力が必要なんでしょうね。舞台の上で起こっている演者たちのハイパーな世界と、お客さんはどれぐらいの球を受け止められるのか。両方の状態がわかっているからこそ、「ここはもう少しゆっくり投げてもらえませんか」と整える役割が、裏方たるプロデューサーに必要な資質だと思っています。

なぜ大阪で若手プロデューサーが不足しているのか。

田中さん 次の質問はなぜ大阪で若手プロデューサーが不足しているのか、です。僕が思うところで言えば日本は生活費の中に観劇費が入っていませんね。欧米では音楽やお芝居を鑑賞するといった観劇費が普段の生活の中に入っているのが自然なんです。それではプロデューサーも不足するし、悪循環になっていく。

池口さんとかは海外でもよく公演されているのでお聞きしたいのですが、日本と海外では舞台の反応も違いますよね。

池口さん 反応もそうですが、日本はたぶん根本的に和太鼓のコンサートもちょっと値段が高すぎると思います。チケット代が6000円ぐらいから安くて3000円とかです。和太鼓は音が大きいので安い値段で観られる場所・設備は難しいという問題はあります。短い演奏でも1000円ぐらいで観られるような環境が整えば何か変わるではないかと思います。

田中さん 入り口をつくるというのは大事ですね。値決めもプロデューサーの仕事じゃないですか。僕はもともとサラリーマンとして商社で働いていたときは定価がある商売をやっていました。でもエンターテイメントって定価がありませんよね。価値は自分たちで決める。この値決めは非常に難しいと思います。原田さんはストリートダンスの値段設定に悩まれたでしょうか。

原田さん 最初はクラブでDJイベントをやっていましたので、クラブイベントの常識感で決めました。そのクラブがなくなって箱を借りるようになってから悩みました。会場費も値段の高低差がありますが、会場によって値段を変えにくいというのがあり、何度も値決めで失敗しています。

田中さん もちろん安いほうがいろんなものが見やすいですが、生活というものがあって、その人たちが生きていかないといけないですからね。

(プロ野球の)長嶋茂雄さんが落合博満さんに怒られたという話があります。長嶋さんはお金のために野球をやっているわけではないので、巨人軍から1億円の年俸を提示されたときに断った。それを落合さんが「長嶋さんが断っていなければもっとプロ野球選手の年俸は高かったはず」と怒り、長嶋さんは落合さんに謝ったそうです。同じような話はいろんな業界にあり、安易に安くすることがその価値をさげてしまうことはありますよね。

本多さん あるでしょうね。「さんまのまんま」が終了しました。製作費の問題があったように聞きますが、たとえ、さんまさんが「俺はギャラはいらない」と言われたとしても、ほんとにそんなことをしたら、後輩のギャラを上げられなくなってしまいます。

田中さん 正当な対価をもらえるようにいかないといけないのですが、自分で値決めってしにくいじゃないですか。それはプロデューサーの仕事だと思うのですが、対価に関して何か思われることはありますか?

山納さん 実演芸術という言葉あります。一回お金をもらおうと思うと一回演じないといけないのが実演芸術で、一回映像に収めるとDVDや放映権が売れますというのが複製芸術です。複製ができるものは実演の値段が下げられるんですね。またテレビ番組になれば何万人が見てくれるのでスポンサーのお金が環流してギャラとして入る構造になっている。これが東京は充実しているので大阪とはギャラのレートが違います。実演で食べられないために東京に出て行く役者が多いのですが、実演じゃないものって相当いろんな方の意思決定が入るので、やっぱり面白くないと言って関西に戻ってくる役者もいたりします。

例えば助成金を使ってチケット代を安くしたり、スポンサーがどこかの企業のメリットを見つけてきて、そのメリットのもとにいくらかチケットを安くすることもできます。

「落語みたいにひとりで何役もするようなパフォーマンスをつくれば節約できるであろうか」「1ヶ月も稽古するからあかんのではないか」など、実演であるという一点で、多くの実演家は悩みます。大阪で複製とかメディアという仕事がもっとあれば、大阪に踏みとどまったまま、才能が活躍できるのではないかと思います。

田中さん 例えばYouTuberなどひとりひとりが発信できる時代になってきました。僕は今まではメディアが力をもっていましたが、今後はコンテンツァーが一番強くなるんじゃないかなと思っています。コンテンツァーとは太鼓を叩く人であり、おもしろい話をする人、すばらしいダンスができる人のことです。もう少し時間はかかりそうですが、ITを駆使されている原田さんはどう思われますか?

原田さん YouTubeで有名になったダンサーも数多く、大阪で言えばEL SQUADは毎月のように世界に呼ばれていて、インターネットはあなどれないと思っています。でも未だに地上波もすごい力を持っているのも事実です。メディアのサイクルは速いのでちゃんと見極めながらつきあっていかなければと思います。

そこで思うのは、お客さんは少しでも興味を持ったり、面白いと思ったら継続的なサポートをしてほしいです。昨日も演劇関係者と話していたことですが、結局イケメンや美少女が出演する舞台にしか人が集まらない、内容は別に見ていなくて、かっこいいだけで終わってしまうというのです。もちろん演者の努力やファンサービスも必要ですが、もうちょっと継続してサポートしてほしいな。今のアイドル文化を否定はしませんが、全方向的にそっちに向いている人が多い気がします。

本多さん お笑いもまったくいっしょです。よく演者から「素人のくせに」という言葉を聞きます。それに対しては「お金払ってくれているのは素人。その素人を笑わせんかい」と言います。売れてしまうと、ときとして天狗になってしまう。レベルの高いお客さんを笑わせるには今以上に勉強しないといけない。そうなると相乗効果でお笑いのレベルがあがります。

田中さん 大阪はまさにそうですね。お笑いに対して全員が厳しいじゃないですか。

本多さん 実際にNSCに入って、やってみたらプロとは全然レベルが違うのがわかってお笑いをやめていく子は多いです。

池口さん さっきおっしゃっていたましたが、今ならYouTubeなどで自分で映像配信できるので自分の長所を発信できます。その長所を見つけて「こうしたらお金に変わるよ」「もっとこうしたらうまく伝わるよ」と手を差し伸べることがプロデューサーの仕事に含まれるのかなと思います。

田中さん 僕自身はお金に対してはそんなに興味がないですが、自分がどれだけ稼げるかということにはすごく興味があります。自分の存在価値だし、世の中にどれだけ貢献できるのかが気になります。

本多さん お笑いで稼いでいる人でお金のためだけにやっている人ってほんとにおらず、上と下の差が大きいです。ダウンタウンも食べられない時代がありましたからプロデューサーがどう引っ張ってあげるかが大事でしょうね。「ラッスンゴレライ」の8.6秒バズーカーも、僕の最初の授業であれをしたので「やるんやったら服やサングラスを揃えろ」とそこだけ指摘したんです。そうするとぜんぜん違ったんですが、それでもダンスのクオリティをあげないと、と言っていました。もっとうまくプロデュースできていたら今のピコ太郎のようになったかもしれないですね。ピコ太郎はプロデュースがうまいですね。ジャスティン・ビーバーに面白いと言わせて、そのあとすぐに日本語版と中国語版をつくるあたりはプロデュースの力でしょうね。

人を魅了するプロデュースとは?

田中さん まだまだ話したいのですが時間も迫ってきました。最後にお聞きしたいのは、一言では言えないかもしれませんが、みなさんが思う「人を魅了するプロデュース」とはなんでしょうか。

池口さん アマチュアで和太鼓を演奏されている方のほうがより詳しく知っていたり、技術的な部分を含めてプロとアマチュアの境目はどこやねんというのが和太鼓の世界にはあります。

プロデュースという視点で言うと、短所やできていないところを指摘するのではなく、長所を伸ばしてあげられるようにならなくてはと思っています。

原田さん 僕はちゃんと血液の通ったコンテンツをつくるというのが魅力のあるプロデュースだと思います。いろんな方と交わるので、例えばプロジェクトにおける頭、胴、腕、足、それにきっちりと血液を流せる、ちゃんと動かす、意思統一をはたすことでみんなに魅力あるものだと感じてもらえると思います。

本多さん 必ず授業の最初に言うのは東日本大震災のことです。突然に人生を、夢を断たれた方がたくさんいらっしゃる。いろんなことがある中でお笑いをやろうと思ってここに来られたことに感謝しましょう。舞台に立てたことに感謝しましょうと話します。すべてのことに感謝をしていれば、まず変な方向にはいかないだろうと思います。お笑いの世界にも天狗になってしまう人がいます。ひとりでやっていない、みんながいてはじめて舞台に立てる、そこを絶対忘れちゃいけない。だから、大事なのは感謝かな。

山納さん 相手思いであるということだと思っています。プロデューサーというのは表現者、パフォーマーと観客の間に立つ人だといいましたが、いまお客さんが思っていることに寄りそうことが必要です。こんな長々としゃべりやがってと思っているかもしれない、とプロデューサーは考えます。自分が一番厳しい観客としてその場にいたときに何を思うか、お客さん思いである、演者思いであるということだと思います。このちょっと距離のあるお互いを思うことによってどうおつなぎできるのかがプロデュースにおいて大事かなと思っています。

田中さん 言葉はみなさん違うけれど、何か共通点がありました。やはり気持ち的な部分が大事なんだろうな。人を楽しませる、という精神がプロデュースの原点かなと感じました。パネリストのみなさん、ありがとうございました。

シンポジウムを終えて感じたのは、果たして大阪の文化はリテラシーの高い見巧者を強く意識してきたのだろうか、ということでした。同時に見巧者も”つくる”ことが大事なのではと思いました。みなさんも「人を魅了するプロデュースとは?」の問いを、さまざまな視点で考えなおしてみるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

(構成=狩野哲也)