大阪アーツカウンシルでは3/27夜、関西フィルハーモニー管弦楽団(以下、関西フィル)事務局の黒北奈津子さんを「あつかん談話室」のゲストにお招きし、オーケストラの舞台裏についてお話を聞きました。
NHK「サラメシ」で取り上げられた
まずは関西フィルがNHKの番組「サラメシ」で取り上げられた際の映像を見せていただきました。サラメシとは「サラリーマンの昼食(サラメシ)から、話題の企業の社長さん、憧れのスポーツ選手まで、多彩な職業の人々の様々なランチを徹底的にウォッチングするという趣旨の番組です。「番組のホームページから『オーケストラもサラリーマンです!』と愚直にメールをお送りした」のだとか。そのため楽団員のランチタイムなどを中心に紹介されています。
写真は取材風景
「管楽器の演奏者が来るのがはやいですよ。ウォーミングアップに時間がかかるので」
練習風景が映し出され、楽団員の山本さんと中川さん夫妻のランチが紹介されました。
「肺活量が求められる金管楽器は、空腹だとスタミナが持たないのでたくさん食べる人が多いんです。少食の金管楽器奏者なんていないと思います。唇の感覚がとても大切なので、辛い食べ物も避ける人が多いです」
ここから大阪アーツカウンシルの佐藤さんの司会のもと、「あつかん談話室」のアートのお仕事「オーケストラ編」がスタートしました。まず佐藤さんが大阪のオーケストラについて簡単に解説。
大阪オーケストラ事情
佐藤さん 「大阪には4つのオーケストラがあります。老舗は大阪フィルハーモニー交響楽団で、戦後すぐにできました。二番手が関西フィルハーモニー管弦楽団です」
黒北さん 「クラリネットが趣味の、ある企業の社長がご自分で創設したのが始まりです」
佐藤さん 「次に古いのは大阪交響楽団。通称、大響と呼ばれています。一番新しいのは日本センチュリー交響楽団。これはもともとは大阪センチュリー交響楽団という大阪府の楽団でした。以上4楽団は日本オーケストラ連盟の正会員。ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団とテレマン室内オーケストラは準会員です。テレマンは大フィルに次ぐ老舗で、18世紀の音楽を専門に扱っています」
日本オーケストラ連盟の規程によると、正会員になるためには固定給を支給しているメンバーによる2管編成以上のプロオーケストラで、定期演奏会を年に5回以上開催していることが条件です。
オーケストラの職種
オーケストラの仕事についてご紹介いただきました。ちなみにメンバーはホームページのこちらでご覧になれます。
- 指揮者 楽員(プレイヤー)
- コンサートマスター(コンサートミストレス)
- ライブラリアン
- ステージマネージャー
- パーソナルマネージャー
- インスペクター
- 楽団長 事務局長 専務理事
黒北さん「まずわかりやすいのがステージマネージャーです。これは楽器搬入搬出や舞台の進行をする人です。パーソナルマネージャーは、それぞれの演奏会で誰が演奏するのか出番を管理する人。
馴染みのない言葉、インスペクターは楽団によって仕事がいろいろ違うようですが、練習がスムーズに進むように調整する人です。
ほかにも経理や総務(パーソナルマネージャー、給料計算)、主催公演関係(チケット管理、チケットやチラシの作成、助成金申請)、依頼公演関係など重要な仕事があります。
オーケストラは楽団によって、事務局の仕事の仕方、ルールなど、本当に千差万別です。今日のお話は関西フィルのことだけだと思ってください」
楽譜庫
ライブラリアンとは日本語では「楽譜係」です。演奏会ごと、楽器ごとに、それぞれの楽譜まとめる準備をします。
「運命」のパート譜
黒北さん「楽譜庫から楽譜を出してきて、公演ごと・楽器ごとに楽譜を用意するのは作業の内のひとつで、ライブラリアンのスタッフに確認したところ、指揮者によっては作業の8割がボウイングを楽譜に書き込むことだと言っておりました。ボウイングは弦楽器特有のもので、弓使いを表します。指揮者から事前に指示があることもあり、リハーサル中にボウイングが変わる場合は奏者が修正するのですが、事前の準備は全部ライブラリアンが行います」
関西フィルの指揮者は3人
いま関西フィルは3人の指揮者がいらっしゃいます。それぞれの持ち味はどんなところにあるのでしょうか。

黒北さん 「音楽監督はオーギュスタン・デュメイさん。カラヤンという指揮者の名前はご存知ですか? 彼のような巨匠から絶賛されたフランスのバイオリニストなんですが、素晴らしい音楽性をお持ちで、関西フィルでは音楽監督を務めていただいています。普通の指揮者では思いつかないようなことをデュメイ氏は作り出してくださいます。楽団員からは『何を食べたらあんな流れをつくれるんだろう』というような意見も。バイオリニストとしては世界トップクラスなので、彼が来てから、関西フィルのバイオリンの音が美しくなったと言っていただいています」

「首席指揮者は藤岡幸夫さんです。関西フィルの発信塔とも言える存在で、BSジャパンの月曜日夜11時からのテレビ番組『エンター・ザ・ミュージック』で司会も務めています。
おしゃべりが上手なので、司会役もお願いすることがあります。お客様との距離をものすごく縮めてくれるのがいいところです」

「飯守泰次郎さんは77歳ですが、ドイツ、オランダなど欧米での生活が長くて半分外国人のような方です。ドイツ音楽とワーグナーの大家ですが、博学で哲学や宗教にも精通されています。現在、桂冠名誉指揮者です。年代も個性も異なる指揮者の三つのカラーがあるのは関西フィルの特色です」
コンサートマスターの重要性
関西フィルにはコンサートマスターが2人いるそうです。

「コンサートマスターはオーケストラ全体のリーダー役です。いつもこの客席側の先頭に座っているバイオリニストがコンサートマスターです。コンサートマスターは背中ですべてを表現し、指揮者が要求する音楽を楽団員に伝えていきます。大変な重責ポジションです」
事務局での黒北さんの仕事内容は?
いろいろオーケストラの舞台裏をお聞きしましたが、黒北さん自身はどうやって現在の事務局の仕事をはじめるようになったのでしょうか。
黒北さん「大学で音楽教育を学び、神戸のホールを管理する仕事を3年弱していました。その後、関西フィルに入社しました。私が担当しているのは依頼演奏会です。関西フィルで演奏会をしませんか、という営業を企業や市民会館の方に向けて行っています。受託できれば日程調整からはじまり、どんな曲を演奏するか相談します。ホールの大きさ、予算によって出演者・演奏できる曲が変わってくるので、予算を聞きながら調整していきます」
オーケストラの仕事で一番うれしいのは?
黒北さんが仕事の中で「うれしい」と感じる瞬間はどんなところでしょうか。
「さまざまな条件をクリアして公演を組み立てていき、机上の空論だったものが練習日にはじめて音として現れる、そして思ったよりもうまくいったときとかはやっぱりうれしいですね」
関西フィルにはそういった黒北さんの企画の意図を汲み取ってくれるメンバーが揃っているそうです。
「関西フィルの楽団員はクラシカルなことでない物もとても興味を持って演奏してくれます。それは直接演奏会の出来に繋がるので、そのときは関西フィルにいて良かったなと思います」
オーケストラはどう楽しめばいい?
それでは最後に、オーケストラに行ったことがない人は、最初にどう楽しめば良いのか聞いてみました。
黒北さん「好きな曲を生の演奏で何回か聴けば、演奏の違いがわかって面白いですよ。私は学生のころ、ベートーヴェンの交響曲7番とドヴォルザークの交響曲8番の演奏会を探して、そればかり行っていました。予習はyoutubeでいいと思います。ホールで初めて聴くときは2階席がおすすめです。ステージの奥まで見えて楽器の種類がわかりやすく、視覚的にも楽しめます」
いかがだったでしょうか。実は打ち解けてくると、談話室の中で辛口の意見も飛び出しました。
「チケットが高い…」「チラシがダサくて嫌…」「若い人に向けてアプローチが少ない、というか私たち世代にしゃべりかけてくれない…」
それに対して黒北さんが、確かにオケはフレンドリーさが不足している、昔みたいに演奏さえしていればいいという状況ではないのだけれど……と語っておられたのが印象的でした。
これからも「あつかん談話室」では、知り合った人同志が打ち解けてくることで見えてくる、芸術文化の外からの見え方を共有する時間を大切にしていきたいと考えています。
今後もアートの仕事という切り口で、さまざまなジャンルの方をゲストにお呼びしていきます。ゲストから鑑賞のツボなどをお聞きすることで、新しいジャンルの扉を開く機会にもなれば幸いです。